前に触れた大澤真幸氏は「恋愛は不可能だ」と喝破したが(その論理構造はよくわからん・・)、筆者はむしろ民主主義こそが不可能なのでは、と考えている。それは、人間は他人の説得を(原則として)受け入れないようにできているからである。
民主主義の基礎となるのは討議、ディスカッションである。そして、ある事柄について喧々諤々の議論をするためには、全員が議論の前提となる知識(情報)を共有している必要がある。その知識の共有はたしかに実践的には大問題だが、それは知ろうとすれば済む話なので、理論的には問題にならない。つまり、討議を不可能にする理由にはならない。
それよりも、たとえばAさんとBさんが意見を戦わせた場合に、じっさいにはその議論が噛み合わないケースのほうがおおいはずなのだが、噛みあったと仮定しておく。その議論の結果、起こりうるパターンは次に列記する4パターンだ。
1)お互い元の意見を保持する
2)AさんがBさんの意見を受け入れる
3)BさんがAさんの意見を受け入れる
4)AさんはBさんの、BさんはAさんの意見に変化する
実践的にはともかく、理論的には4)は保持しておかなければならない。2)と3)は理論的には等価と考えてよい。筆者が問題にしたいのは、この意見の変化の可能性についてである。お互いに確固たる意見を保持している時に、相手の説得を受ける、あるいは相手の意見を傾聴した結果、自分の意見を変更することは、かなり心理的に困難なのではないかと思われるのである。
相手の意見を納得してしまった際の対処は、通常次のようになる。ひとつは部分否定だ。つまり、意見のある部分については正しさを認めるが、全体として、あるいは最後の結論を間違っている、と判定することである。もう一つは真理相対主義だ。「君の立場では君は正しいが、それはすべての人に当てはまらないのだ」という方法だ。
また、これは歴史学でしばしば問題になることであるが、「唯一の正しい歴史は存在するか?」という問いがある。神がこの世に存在して、神はすべての歴史事象を正しく認識している、という考え方だ。しかし、たとえ目明きであっても、象を正しく観察できる人間がいるのかどうかはかなり怪しいところだと思われる。ある事件に巻き込まれ、その渦中で事件を観察できたとしても、結局身の回りに生じたこと以外をみることはできない。どれほど資料を蒐集しても、事件の全貌をみることはできない。それは、観察するためのフレームワーク・・・たとえば、会話をするためには日本語なり英語なりが必要だ・・・を通して物事を観ざるを得ないからである。その色眼鏡は個人によって異なるいじょう、他人と同じもののみかたは不可能なのである。
その「見ることの不可能性」に加えて、意見を変えることに伴う莫大な心理的抵抗を克服しなければならない。こちらのほうがハードルは高いかもしれない。
つまり、その結果、民主主義は多数決と同義でしかないし、話し合いや討議の場というものは、おのおのがその意見を開示する場でしかないのではないか、ということだ。発言の自由が許されているのはよいことだ、という意見もあろう。たしかにそうかもしれない。ただし、自由な言論は単なるガス抜きのために許されることもある。むしろ「不満を口にさせる」ことで実力行動に出ることを差し控えさせるという意味合いの方が大きかろう。
そう、そもそも筆者がどうしてこのようなことを問題にするのか。それは、経験上、討論や討議によって、相手もしくは自分の意見が変化した、という経験が皆無にちかいからである。あきらかに自分が間違っていることを発見する場合もないではないが。
そして、そういう事態がほとんど起きえないものなのであれば、それを想定している民主主義なるものは、結局多数決の同義語となるしかないのではないか、という疑問が湧いてくるのは当然だろう。ひとくちに「衆愚政治」というが、これは有権者がバカかどうかというよりも、そもそも人間というのは自分の意見を変えない、他人の意見を聞かない、あるいは耳を傾けたとしても受け入れない動物なのではないか、という諦念に発している、というみかたなのかもしれない、と思うのである。
>山村さん
>何とかせんといかんのだよね...。それが現に存在する以上。
民主主義でなく、別のシステムを構築したほうがいいのでは、というふうに、筆者の思考は流れていってます。民主主義、つまり、「十分な理性、透明な情報の共有、理想的な討議」というのは、あまりに非人間的でないかとおもふのです。
#でも、片山さつきが奇しくも言っているとおり、日本にイギリス的な貴族制(エリート主義)はもう再構築
#できない。戦前の旧制高校がそれに近かったと言えるかもしれないけれど。
コメント (1)
よくわかるけど、不可能だ、と言ってしまわずに、何とかせんといかんのだよね...。それが現に存在する以上。
え、恋愛も? そうそう。(爆)
投稿者: michiaki01 | 2006年04月15日 21:35
日時: 2006年04月15日 21:35