前道志とは、桂川(相模川)流域、つまり中央線沿線の相模湖〜大月間と、秋山側沿いの旧秋山村(現上野原市)の間に横たわる山域のことである。この前道志の西端の山は富士急行線の田野倉または禾生からアプローチできる九鬼山であることは異論はないと思うが、東端はどこなのか。現在、一般的に登られている東端の山は、上野原側からは御前山を経て高柄山であろうし、秋山側からは金山峠〜大地峠であろう。
登山者のあいだで悪名高き「メイプルポイントゴルフクラブ」の存在がこの問題を複雑にしている。この地点をみてみよう。ここは「新矢ノ根峠」と呼ばれ、このゴルフ場建設に伴い新しく作り出された峠である。従来は、このゴルフ場の南側に這う点線路が登山道であった。この道で鶴島に降りられたらしいのだが、ここは現在フェンスでしきられているようだ。そこでこの北側に向かい、御前山の麓までゴルフ場を迂回する新しい道(これは地形図上にはない)が新しくつくられ、その悪さから(ここは以前に一度上野原側から通ったことがあるが、確かに急峻な道である)登山者の怨嗟の的になっているらしい。
ところが、地形図をよくみると、ゴルフ場の南側に、500mや482mのピークを抱える尾根がある。ここに道があるのかどうかはよくわからないが(あるという説もある)少なくともゴルフ場の土地とは思えない。そして、ここが前道志の主脈であり、さらに東方の401m-418m-378mピークや、北方の337mピークまで歩くことができそうに見える。これが本来の「完全縦走」なのではないか。
さらに筆者は九鬼山の北方を問題にしたい。九鬼山から大月方面には尾根伝いに縦走が可能であって、大月の菊花山から大月駅に降りたり、猿橋のパストラルびゅう桂台の脇を通って猿橋駅に抜けたりできる。ここを起点とすることが完全縦走なのではあるまいか? 筆者はこの考えに基づき、中央本線猿橋駅からの完全縦走にトライしてみることにした。
例によって中央線(総武線)の始発に乗り、6時1分発大月行きに乗る。猿橋駅からのアプローチは、大月市によって例によって懇切丁寧な道標が調えられており、間違えることはない。猿橋駅からパストラルびゅう桂台への舗装路の途中のカーブに取り付きがあり、道標もある。ここからすぐに尾根に乗ってしまうので、木々の間からの展望はよい。所々の切り開きからは、北側に滝子山や雁ヶ腹摺山〜楢ノ木尾根が、南側には九鬼山、三つ峠山、杓子山、そしてもちろん富士山などが遠望できる。そして植林は少なく落葉樹の雑木が多く、意外にも雰囲気の良い道である。神楽山、御前山(御前岩)ともに展望がよい。馬立山までの道もほぼ稜線上(一部トラバース)で気持ちの良い道だ。ただ、積雪のためスリップ気味であまり飛ばすわけにはいかない。御前山を過ぎて厄王権現への、そして沢井沢ノ頭で菊花山への道を分ける。797mピークの馬立山は展望はよくはないが、九鬼山への縦走路最後のピークである。ここに、「九鬼山まで2時間10分」とか書いてあるが、この縦走路の「岩殿クラブ」なる団体の所要時間の記載はあまり当てにしないほうがいい。飛ばさなくても筆者はここから九鬼山山頂まで1時間20分ほどで着いている。
道はここから小ピークを経て下りはじめ、底のようになっているところが札金峠(表示はない)である。地形図には田野倉方面と朝日小沢方面へ峠道が通じるように書いてある。廃道になっているかもしれないが、何とか行けそうな雰囲気であった。ここから徐々に登りになり、再び尾根に出て、九鬼山方向へ大きく左折してゆく展望のよい広場が紺屋の休場である。ここから尾根を直進してそのまま九鬼山へ登れそうなのだが、なぜかここから道は延々と東側の尾根へトラバースしてゆく。ここは特に積雪期はちょっと危険なので注意が必要だ。826m三角点を擁する東尾根は、そのまま東へ下ってゆくとやはり朝日小沢に出ることができるらしい。九鬼山の頂上には意外なことに誰もいなかった。ここまで猿橋駅から3時間の行程である。
ここから見晴らしのよい富士見平、杉山新道との分岐の小ピークを経て、いよいよ縦走路へ入る。格段に踏み跡はすくなくなるが、それでも積雪の中にほんの数日(あるいは当日?)前に付いたと思われる靴跡を二、三みかけ、意外な気がする。そんなに多くの人に歩かれる道ではないと思うのだが・・・さらに高指山のピークでは向かいから縦走する登山者とすれ違う。この道、多少薮っぽいが、それなりに歩かれているようである。ただ、ここから鈴懸峠までに小ピークを10以上越えるから基本的には健脚向きである。ただし、ほとんどが自然林であり、南大菩薩方面および道志方面の展望もよく、気持ちのよい縦走が楽しめる。九鬼山から鈴懸峠まで、登山地図で2時間25分、筆者の足で1時間40分。
ここで車道に出て、しばらくNTT docomoの中継施設までの路面を歩く。途中で尾根に取りつくが、かなり急な登りである。そこから登れる第一のピークは目指す高畑山ではなく、大桑山なのでがっかりしないほうがよい。しかしここ大桑山から高畑山までの稜線上の展望はきわめてよいからがっかりしないほうがよい。もったいないがいったん100mほど下り、残りの100mを植林の中のジグザクに切られた急登をこなすと高畑山であり、大量の登山者に遭うことになる。
ここからはよく踏まれた人気の縦走路である。天神山〜穴路峠〜倉岳山〜立野峠と歩いてゆく。ほとんどの登山者は穴路峠か立野峠で中央線側または秋山側に下るはずだが、さらに東へと縦走してゆく。寺下峠までは顕著なピークはないから、静かな縦走路を楽しんで歩こう。
標高700mの寺下峠から右手の763m峰(じっさいには登頂はせず左を巻いてゆくが)、そして860mの矢平山への登りは精神的にきつく感ずるが、それほどではない。矢平山への登りは岩も出て結構楽しい。この尾根は基本的に土尾根だからである。矢平山の山頂で、次のルートを考えた。
a)(新)大地峠から四方津
b) 高柄山を経て上野原
c) 大地峠から桜井峠を経て古沢(秋山)
当初はc)の予定で、秋山温泉ネスパ(上野原市営の温泉施設)にゆくつもりだったが、かなり遅い時間になってしまう。ここでb)の縦走はあきらめ、a)でエスケープすることとした。大地峠から四方津までのルートは意外に長いため、ゆっくり歩いたほうがよい。かくして、この縦走も終わりを告げた。全長26km、累積標高差+2783m, -2875mのなかなか素敵なコースである。無雪期におひとついかが?
猿橋駅6:40 - 神楽山7:34 - 御前山7:53 - 馬立山8:33 - 九鬼山9:47 - 鈴懸峠11:29 - 大桑山12:12 - 高畑山12:37 - 天神山12:56 - 穴路峠12:59 - 立野峠13:45 - 寺下峠14:42 - 矢平山15:13 - 大地峠15:34 - 四方津駅16:38