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ながい旅・靴の話

 大岡昇平の本(平は点が外向きが正しい)にはめったに外れというものがない。推理物だけはちょっといただけない気がしたが、それでも「事件」などは小説としてもエンターテイメントとしても傑作だと思うし、当然定評ある戦記物、評伝もの、そして恋愛ものは(渡辺淳一のような雰囲気が好きであれば相容れないだろうが)どれも素晴らしい。もちろん彼の本領が「俘虜記」「野火」そして「レイテ戦記」であることは論を俟たないが、スタンダリアンとしての鋭い人間洞察は、至る所で発揮されているのである。

最近の読了
 大岡昇平「ながい旅」角川文庫 B1
     「靴の話」集英社文庫 B2

 「ながい旅」は映画化されて話題になっているそうである。B級戦犯岡田資中将の法廷闘争を描いたものである。何よりも例によって資料集めとその読み込みが圧巻。多方面からの証言を集めて岡田中将の人間像を浮き彫りにしている。そしてこの裁判を通じて、アメリカとの戦争、そして彼らの占領政策がどのようなものであったのか、そこまでを透かし彫りにしている感がある。
 最後、助命嘆願書には非常に多くの(笹川良一の名もあったというが・・・)ひとが署名を行ったそうで、その中には当の裁判で検事を務めたアメリカ人の名も連なっていたという。しかし、その嘆願署名のあまりの多さが、かえってマッカーサーの警戒感を募らせ、処刑へのあとおしになってしまった、という下りは、歴史の非情な運命を感じさせるだけではなく、世の中は法則通り単純に動いているわけではない、歴史を決定してゆくのは些細な要因の積み重ねかもしれない、といった感慨をもたらすものかもしれない。

 「靴の話」は戦争にまつわる小話を集めたもの。しかし、「俘虜記」のテーマとなった「なぜ撃たなかったか」という話の初出もあり、大岡の思考の熟成の過程を知る上ではよい小品集かもしれない。

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2010年02月06日 18:11に投稿されたエントリーのページです。

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